2011年4月13日水曜日

作家・伊集院静さん 日本の根源は東北人の気質にある


仙台市在住の作家、伊集院静さん(61)は、自宅で仕事中に被災した。いまも仙台市内に暮らす伊集院さんに聞いた。





 仙台に移住してから、16年になります。以前は家を空けていることが多かったのですが、ここ2年ほどは仕事の量を倍に増やしたので、1年のうち10カ月くらいは仙台にいます。だから地震のとき家に居合わせて、運が良かった。不在だと家族が困ったでしょうからね。

 本震後の3日間で、マグニチュード6~7級の地震が、21回ほどありました。21回、と言ってしまうと単なる数字なんですが、ガガガガガッ、というすごい揺れが昼夜問わず30分おきに来ることを想像してください。いやになっちゃいますよ。東京でもずいぶん揺れたと思いますが、そんなものではない。普通の人なら、神経がやられちゃうと思います。じっとしていても、まだ揺れているんじゃないかと、平衡感覚がおかしくなりますしね。
被災地にいると、どうしても政治やテレビの報道が東京中心なのが目につく。それは仕方がない。東京都だけで1千万人以上が住んでいるんだから。でも、どうしてもこぼれ落ちる視点が出てくる。たとえば被災地で、首都圏の計画停電の話をずっとやっているテレビを見せられたら、こっちはずっと停電しているんだから、君たち少しは我慢したらどうだ、と言いたい気分になるでしょう。

 買い占めについて言えば、東北では起きていない。それが東京や大阪になると起こるのは、街にコミューン(地域共同体)がないからです。住んでいる人たちみんなが仮住まいだから。人の目を気にしないなら、何だってできる。コンビニじゃなくて、顔なじみの近所の八百屋やみそ屋だったら、買い占めなんてできません。そういう部分が消えるということが、コミューンがなくなるということなんでしょうね。マンションの隣室に誰かが引っ越してきても、あいさつもしない。廊下ですれ違っても無言。こんなのは日本人だけです。

 それは、誇りがないからそうなるんです。なぜこの街に自分が住んでいるのか、という信念がないから。ではどうして信念がないかというと、信念というものが生きる上で必要だという教育を、日本がしてこなかったから。買い占めた連中も含めて、多くは最高学府(大学)を出ているんです。大学卒業までの16年間の教育で、何を教えてきたんだ、ということです。

原発の問題については結局、資本主義社会全体が問われているんでしょう。原子力で電力を起こさないと、経済生産性が保てないのか、という問題です。原子力に依存するという政策は、国民が賛成してきたんだからね。

 それと今回、非常に象徴的なのは、なぜ災害に見舞われたのが東北なのか、という問題です。これだけ何度も何度も災害から再生してきたのは、東北しかない。古くは慶長の大津波(1611年)から、明治29年、昭和8年の大津波。そのたびに8割9割の人間が死んでも、街を再生させてきた。日本の根源というのは、東北の人たちの気質の中に生きているんです。そうした歴史があるから、戦後の復興も可能になったのではないでしょうか。(談)

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